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東京ちんこ倶楽部 〜哀しみのLast dance〜

生。社会。すべてが、ちんこ。

店が見つからない

  店を探していた。
  会社を出たのは22時を過ぎていた。それほど遅い時間でもなかったが、ひどく辛かった。数年前よりと比べて随分と体力が落ちているのを感じた。それもここ数日の話ではなく、半年間はこの調子だった。正確にキーボードを打つのさえ覚束なくなるときすらある。老いは確実にぼくの体を蝕んでいた。
  頭の中に漠然としたイメージがあった。"新しくない"店で、白いテーブルは拭いても拭いてもぬらぬらと油っぽく、カウンターには眩しく銀色に光る灰皿がいくつも重ねられていて、客は自分でそれをとって煙草を吸う。頭上ではブラウン管のテレビがニュースを流している。どのテーブルでも煙草を吸わない客はほとんどいない。厚いウール地のジャケットを着た老人達が酒を飲みながらダミ声で騒いでいる。黙々と食事を口に運ぶサラリーマンは1人で携帯を眺めている。大学生らしい若者の集団もいる。カップルがいてもいい。不必要に幸福そうな人々というものを除いて、どんな人達がいてもいい。
  でもそんな店はぼくの記憶の中にはあっても実際どこに存在するのかは分からなかった。自分がまだ学生だった時分にはどの街にもそんな店がぽつりと明かりを灯しているような気がした。しかし今夜いくら街を歩いてもそんな店は見つからなかった。少しくらいイメージが重なる店があってもよさそうなのに、それすら見つからなかった。
  狭い街だった。15分も歩けば、駅の南は歩き尽くした。北口の夜は早いことが分かっていた。だからぼくは何度も通りをなぞるように南口の街を探して歩いた。それでも店が見つかることはなかった。