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東京ちんこ倶楽部 〜哀しみのLast dance〜

生。社会。すべてが、ちんこ。

生命の危機すら感じる

バンドサークルに入っていたころ、学園祭やらなにやらで設営準備と練習に追われていると、ふとしたときに、女の子が、泣いていることがあった。
でも、悲しそうな表情ではなかった。本当に疲れてくると、なにも悲しくないのに、涙が出てくるのだと、彼女は説明した。
働きはじめて、彼女が言っていたことが、嘘ではなかったと分かった。あまりに疲れると、涙が自然にでてくる。深夜残業や休日出勤が続くと、ほおに流れるほどでないが、両目のふちに、涙がたまるのを感じる。それも、ときおりそうなるではなくて、会社にいる間、常にそうなのだ。
幸い、今はまだ肉体的な疲労が強いだけなので、いつも目が潤んだりするくらいで済んでいるが、会社に入ったばかりのころは、上司からの叱責や、先輩の陰口などが重なり、精神的にも強いストレスを感じており、おそらくそのせいだと思うが、左耳が難聴になった。耳が聞こえなくなるというのは不思議な経験だった。飛行機が離陸したあとのように、耳の中の空気の流れがおかしくなったかと思ったら、それきり、ひどく音が遠くなった。
その他、胃の不調など、働き出してから壊れ出した部分が、いくつかあるが、精神がだめにならなかったぶん、致命的な問題にはならなかった。
高校時代の友人は、ぼくより一足先に就職したが、連日の、終電まで続く残業と、休日出勤と、さらに会社の寮での生活の息苦しさから、適応障害になった。彼は、あと一歩で、電車に飛び込むところだったと、言っていた。
精神をやられてしまうと、正常な判断が、できなくなり、会社がすべてて、会社での自分がだめだということは、生きる価値がなく、死ぬしかないという考えに、至るようだ。もっとも、そういう風に考えなくても、ただただ苦役から解放され、楽になりたいがために、一番手っ取り早く、その気になればどこででも実行できる、絶対的な手段を選ぶこともあるだろう。追いつめられたら、自殺は簡単なことだ。もっとも間違いがない解決策に間違いない。
自殺しかけた彼は、適応障害になったことを上司に報告したら、多少仕事量が減ったため、今でも同じ会社にとどまっている。
彼は、学生の就職先としても人気がある、大きな会社で働いている。就職するにも、苦労していた。そういったしがらみが、彼にそこまで無理をさせた部分もあるのだろうと考えられるが、やるせないものがある。
一度、精神を壊してしまうと、完治することは難しいだろう。彼は、今は病院に通っていないし、薬も飲んでいないが、それでも、以前の彼とは、変わってしまったように感じる。会って話していても、話題が、彼自身に関心のあることばかりに、集中しすぎるような気がする。
もう1人、同じように適応障害になった友人がいた。彼も、高校の同級生だ。経理職で、20代で会社の倒産を経験して、別の会社にうつった。誰もが知っている大きな会社の子会社で、安定していると言っていたが、母親の死と、激務が重なり、精神を病んだ。休職ののち、復帰して、今は定時帰りの生活を送っていると言っていた。
このように、ぼくの友人たちの身の上に起こった悲劇を思うと、ぼくはまだ恵まれている方だと、感じる。