センター街の、自由
ぼくは、ザ・ポップ・グループを、聞きながら、渋谷を歩いていた。
そこは、センター街だった。
ぼくは、マスクを、していた。
喧騒の中で、ぼくだけが、自由だった。
ぼくの耳は、ギターの弦が、空間を斬る音と、ベースとバスドラムが、空気を蹴り出す音しか、聞いてはいなかった。
ぼくの口は、白い布が、覆っていた。ぼくは、誰にも、なにも、話す必要は、なかった。
そこは、センター街で、街の、谷底だった。
丘の上から、たくさんの人たちが、流れてきた。
センター街は、夜だった。
カラオケ屋のネオンが、牛丼屋のネオンが、ピザ屋のネオンが、バーのネオンが、照らしていた、街と、人を。
誰もが、誰かと、話していた。
若い男達が、若い女達と、話していた。
日本人が、中国人と、黒人と、白人と、話していた。
ぼくだけが、一人。
ぼくだけが、自由だった。
ぼくの目だけが、自由に見ることができ、ぼくの耳だけが、純粋で、ぼくの心だけが、深く、沈んでいた。
ぼくは、ザ・ポップ・グループを、聞いていた。