東京ちんも日記

生。社会。すべてが、てんこ。

チカカクヘイキ

会社へ向かっている途中、聞きなれない言葉を聞いた。「チカカクヘイキガハッケンサレマシタノデ・・・」駅のアナウンスがそう言っていたのである。関東に梅雨入り宣言が出されてすでに一週間はたっていたが、まったく雨は降っていなかった。ぼくはいつも寝室の窓を開けて寝ているが、その日は朝方から空気が冷たく、降雨を予想していたので、傘を持って出かけた。どこにでも売ってあるような透明のビニール傘だった。それは持ち手と骨組みだけが黒で、ビニールはいくぶんくすんで白く曇っているようだった。電車に乗って、買ったばかりのオーディオ・テクニカルのヘッドホンでザ・キンクスを聞きながら車窓を眺めていた。空は薄く曇り、いつ雨が降り出してもおかしくなかった。こういう日はイギリスの古いロックバンドを聞くに限る。ぼくが聞いていたアルバムはキンクスがまだデビューしたばかりのころのもので、のちに発揮されるレイ・デイヴィスのたぐいまれなメロディセンスはまだ全面的にその素朴で良心的で懐古的な魅力を開花させてはいなかった。でも陰鬱な仕事に向かっているときに聞く美しい音楽はあまりに美しすぎてぼくをあまりにも遠くの地平まで連れ去ってしまう。ぼくは初期キンクスのばらけたバンドサウンドを聞くともなく聞きながら一日の仕事の流れを最初から最後までイメージしてみた。それは困難な障害と意味の無い気鬱がそこかしこに散りばめられた長い長い道のりだった。電車内にはぼくと同じように憂鬱が頭の中に染み込んだような表情の無い顔つきをしたサラリーマンがカーブの振動のたびに揺られていた。いつも見かける顔も見受けられた。ぼくらはいつまでもこのように毎朝電車に揺られて気の進まないままに都心まで運ばれていくのだろうと思った。電車が新宿についた。その瞬間、ぼくの鼓膜は破れ、気を失った。あらゆるものがぼくめがけて飛んでくるのを見たような気もする。意識を取り戻した今も、体は動かない。ぼくは今自分がどこにいるのかも、わからない。