東京ちんも日記

生。社会。すべてが、てんこ。

次々と人が辞めていくのが当たり前

  ぼくの部署で三年目の社員が一人辞めることになったので、送別会が開催された。一年目の社員が先日辞めたばかりの出来事だった。これで、今年に入って辞めた社員は五人になった。数ヶ月ごとに退職者が出るので、社員はみな慣れたものだが、新人に、先輩が短期間に沢山辞めていくのを見られるのは、悪い気がした。それなりに努力を継続して入社した会社から、あまりにも頻繁に人が抜けていくというのは、いい心持ちではないだろうし、彼らの脳裏にも、退職という選択肢がすぐ浮かび上がるようになるだろう。
  ぼくは、仕事が立て込んでいたので、30分ほど遅れて会場の居酒屋に到着した。店は歌舞伎町にほど近い雑居ビルの二階にあった。店内に入るときに靴を脱いで預けた。会社から急いで歩いてきたので、靴下が汗ばんでいた。長細いテーブルが二つ、ぼくの会社のために用意されていた。色褪せた座布団に社員が座り、酒を注文しているところだった。
  送別会とはいいながら、実際はただの飲み会となんら変わりがなかった。ぼくは若手の恋愛話や猥談を聞き出して騒ぎたてる中堅社員と一緒に笑いながら、ほんの数ヶ月前にも同じような飲み会が開催されたことを思い出していた。叩き上げでぼくより年下の男の上司が、中途の女性社員に向かっておばさん呼ばわりしているところも、いつもとまるで変わらない展開だった。会の半ばから一部の社員が隅に固まって会社に対する愚痴を並べ立てているところも全く同じだった。
  当の退職者は、一座の話題の主流である猥談には興味を持てないらしく、席を入れ替わりながら先輩社員に挨拶をして、簡単な会話を交わしてはまた他の誰かに話しかけたりしていた。なんのために催された会なのか分かったものではなかった。飲み会を盛り上げる面子というものはだいたい決まっているので、彼らと疎遠だった社員が会社を去るときには、退職者についての話題がまったくなくなってしまい、寂しいものである。
  取り立てて餞別や色紙を渡したりすることもなく、会は終了した。もっとも、退職者の性格を考えると、そういったものは不要だと、自ら幹事に懇願していたのかもしれなかった。
  退職者は、直属の上司やセクションのメンバーに連れられて、二次会に向かった。ぼくはある新人と帰りの電車が一緒になったが、その車内で、新人も年明けには会社を辞めることに決めていると打ち明けられた。
  ぼくは途中の駅で電車を降り、新人を連れてバーに入った。新人はそこで先輩としてのぼくを持ち上げる美辞麗句を弄しながら、辞意は決定的である旨を語った。彼のぼくに対する持ち上げ方は執拗とも言えるほどで、うんざりしないこともなかったが、悪い気はしなかった。それでぼくは彼が営業マンとして必要な能力を備えつつあったことを知った。このような、会社への貢献が期待できる社員から退職を決意してゆくのは、残念なことである。