東京てんこ日記

生。社会。すべてが、てんこ。

東京ちんこdream 10 高円寺、古着屋、ヌーベルバーグ

高架線脇の道路を歩いていた。電車が走る音がした。高架線の反対側には飲み屋に混じって若者向けの古着屋がぽつぽつと並んでいた。静かな昼間で、人通りは少なかった。
どこへ向かうともなく歩いていたところ、会社の後輩と会った。後輩とはいえ、人が毎年たくさん辞めていく今の会社では、年次の感覚が薄くなりがちで、同期同然の仲だった。
彼はこれから知り合いの古着屋に行くのだと行った。それでぼくはぼくらがいる町は高円寺だったのだと思った。
小さな雑居ビルの狭い急な階段をのぼったところにその店はあった。ワンルームマンションぐらいの広さしかなかった。壁に沿っていくつものラックがあった。ラックごとに服の種類が分けられていた。毛皮のコートやライダースジャケットばかりが並んだラックもあればTシャツだけのラックもあった。靴やベルトやカバンや小物はひとつのラックにまとめられていた。黒い服と皮の服が目立った。店内は薄暗く、皮からにじむ独特の匂いに満ちていた。
店員は2人いて、いずれも中年の男で、劇団員くずれのような雰囲気があったが、店内でよく見かけるような黒い皮のコートのようなものを着ていて、会社に勤めていてはまず見かけることのないような人々だった。同僚は彼らと話していた。ぼくは靴や小物のラックを見た。一番下に靴が並んでいた。かがんで気になった靴を手にとってみると、そのソールは白く、前後で分割されてハの字型になっていた。
「その靴を履いて歩くときは、歯を食いしばらなければならないんですよ」
店員の1人がぼくの後ろに立っていてそう説明してくれた。ぼくは歯の噛み合わせが左右で違っていたので、それを聞いて自信をなくし、この靴を買うことはないだろうと思った。
店員の1人は昔フランスにいてそこそこ有名なヌーヴェルヴァーグの映画監督のもとで撮影技師をしていたそうだった。でも彼がなぜ今日本で古着屋を営んでいるのかはわからなかった。同僚はもう店を出ていた。芝居の稽古に行ったようだった。

東京ちんこdream 9 泊まり込み、キャバクラ、ホスト

会社の真向かいにキャバクラができた。泊まり込みで働いた翌朝ぼくは倒れこむようにその店に入った。店には扉がなくフロアに入ると低い丸テーブルとそれを囲む赤いビロードのソファとの組み合わせがいくつか目に入った。客は一人もいなかったが男と女の店員が手持ち無沙汰に同じソファに座って喋っていた。夜と朝との間の倦怠感が店全体を覆っていた。

ぼくはフロアに入ってすぐのソファに横になった。そこにはホスト風の2人の男が座っていた。僕の頭の上の方に1人、そして足元にもう1人いた。頭の方にいた男はまるで育ちの悪い部活の後輩のような口調でなにかの噂話を始めた。ぼくはそれに適当に話をあわせた。店の中には女の子もいたが、ぼくのテーブルにはいなかった。

東京ちんこdream 8 カート、飛行機、無目的

スーパーのカゴを乗せるカートを押してエスカレーターで上の階へ登っていた。そこは巨大なショッピングモールの一部のようだった。

気がついたら空港の滑走路にいた。ぼくは近くにあった飛行機に乗った。タラップにはエレベーターもエスカレーターもなかったので両手でカートを持ち上げて一段一段タラップの階段を上っていった。ひどく骨が折れた。

機内は満員だった。通路を進む時にカートが邪魔で仕方がなかった。窓際の席が用意されていたがカートが置けないので近場の乗客と交渉して通路側の席と交換してもらった。

飛行機が離陸を始めたが、ぼくはなぜ飛行機に乗っているのか、どこへ向かっているのか、誰に会いに行くのか、どうしても思い出すことができなかった。

東京ちんこdream 7 旅行、女の裸、女の弟

旅行に来ていた。

とりたてて目立つものもない土地で草の葉を踏んで歩いていった。川だか用水路だかを横切った。その周りだけが白い石に覆われていた。暑くも寒くもなかったが、快くもなかった。

Kという女の子とホテルに泊まった。石で建てられた陰鬱なホテルだった。部屋の中に西洋風の足つきのバスタブがあり、ぼくらはそこで風呂につかった。部屋はひとつきりだった。薄暗い中に緑や赤の灯りが点々と控えめにまたたいていた。ぼくが目を動かすとそれらの灯りはぼくの目になまめかしく揺れ動いて見えた。

Kの義理の弟も来ていた。ぼくもKもKの弟もみな服を脱いでソファにくつろいだり湯船につかったりした。Kの肉付きのよい体が目に入った。それにしてもなぜ弟も一緒なのだと思った。ぼくは嫉妬に近い感情に駆られていた。部屋にいる男が本当にKの義理の弟なのか確かめるすべはなかった。

熱病に浮かされて東京の街をさまようぼく

ぼくは、池袋北口の喫茶店で、周りを中国人に囲まれて、萩原朔太郎の詩を、読んでいた。

ついさっき、サンシャイン通りの端のブックオフで買ってきた、萩原朔太郎の、詩集を、読んでいた。

その他、本は、いろいろ買った。ニーチェと、三島と、ルバイヤートと。

朔太郎の詩を、読み続けることは、できなかった。中国人たちは、とても大きな声で、話していた。

ぼくは、秋葉原で買ってきた、延長コードのパッケージを開けて、空になった箱を、くしゃくしゃにして、灰皿につめた。

それから、御茶ノ水で買ってきた、井上陽水の、バンド・スコアを、眺めたが、とくに得ることもなく、カバンにしまった。

いつものように、ものを買い込んだが、それらを読んだり、使ったりする時間はあるのかどうか、分からなかった。

いつものように、街を転々と歩いてきたが、それで、なにかが満たされたわけでは、なかった。

ぼくは、なにかを求めていたが、それがなにかは、分からなかった。

街を歩けば、それがなんだか分かるような気がしていたが、それは間違いのような気がした。

朝から、部屋を出て、東京の街を、転々としていたが、まるで、熱病に浮かされていたようだった。

ぼくは中国人に囲まれて、虚空を見つめて、煙草を吸っていた。

東京ちんこdream 6 幻の遠足、ひきこもりの友人、強制された部活動

高校の同級生達たちと坂を歩いていた。そこは田舎で、建物らしきものといえばぽつぽつと木造の平屋が目に入るくらいで、5月の晴天の空と、はるか先までつづく坂道がどこまでも見渡せた。淡青色の空に白い大きなひとかたまりの雲が垂れ込めていた。
まるで遠足のようだった。坂道はゆるやかにうねりながらどこまでも空へ向かって伸びていた。
坂の途中にぼくの高校の体育館があってぼくらはそこを目指していた。体育館の入り口につくなり、ぼくは友人達と一緒に陸上部に入ることを命じられた。一緒に陸上部に入ることになった友人の中にはひょろ長くてバスケットが得意だったSもいた。でもSは今では連絡もとれず実家にひきこもっているという噂だった。
ぼくらは高校3年生だったので、部活は最後の大会が終わってもう引退した後だった。ぼくは部活の延々と続く練習をしなくてよいことになってほっとしたところだった。だから陸上なんか断りたかったが、言われるがままに体育館の中に入っていった。

東京ちんこdream 5

ぼくはどこの誰だか知らない男女数人と共同生活をしていた。部屋がいくつかあった。木造の古いアパートのようだった。広い居間があり、安っぽい箪笥があった。ぼくは居間の隣の2畳ほどの部屋でレム・コールハースの本を読んでいた。すぐそばに若い女がいて、彼女もなにか本を読んでいた。村上春樹の小説のようだった。

「猫がまたあそこに入ってる」と彼女が顔を上げて言った。ぼくは彼女の目線を追った。視線の先には食器棚のようなものがあった。ぼくは立ち上がってそれをのぞいた。近づいてみるとそれは食器棚とは少し違ったもののようだった。押入れのように上下が分かれていたが、奥行きはほとんどなく、うすいガラスの板が立てかけられていた。中にはがらくたのようなものがぽつぽつと置かれたままになっていた。この家に住んでいる人々は誰も、少なくともここ数ヶ月の間、この棚のようなものに手を触れてこなかったのに違いなかった。

猫はその上の段の隅に丸くなって寝ていた。茶白のまだ若い猫だった。ぼくは猫に触れてみた。頭を撫でると、後頭部の皮膚がずれて、中に、2つの目玉と、脳漿のようなものが見えた。目立は虚空をゆったりと眺めていた。

猫は静かな寝息を立てて寝ていた。ぼくはそばにいた女に猫を病院に連れていくと言ってその家を出た。寝ている猫を抱いて、ジャスコの一階の入り口の近くにある動物病院に連れていった。医者に猫を預けて待合室にいると、猫を心配してぼくの両親と弟がやってきた。ぼくは今まさに猫は医者に診てもらっていることを彼らに告げると、煙草が吸いたくなったので、病院の待合室を離れた。

お手洗いの近くにあるはずの喫煙所に行こうと歩き出すと、子供用の小さなゲーム機がいくつか並んでいた。その一つを覗いてみると、岡崎京子が80年代に出演した映像作品が100円で流れるようになっていた。どの映像を流れるのかは、ルーレットで決まるようだった。