東京ちんこ日記

生。社会。すべてが、ちんこ。

春は、残酷

春の嵐が吹いて、ぼくは、ヘッセの小説を、思い出した。

営業の途中に、とある大学の、キャンパスを通った。桜の花はまだ散ってはいなかった。入学式を終えたばかりの新入生達が、なにかが始まるのを待っていた。サークルの勧誘が行われていた。キャンパスは笑い声に溢れていた。彼らは希望に満ちていた。なにが起こるのかもわからない、まだなにも考えてはいない、可能性に満ち溢れた、もっとも純粋な希望のようだった。

雨上がりの空気は湿り気を帯びて、むせるほどだった。空気さえ、希望をはらんでいるような気がした。 

ぼくはぼく自身にも今日の彼らのような時代があったことを思い出した。それは遠い昔のことだった。そしてそんな時間が二度と帰ってはこないことを思った。そんなことはとっくの昔に知っていたが、思い起こさずにはいられなかった。呼吸をするたびに、春が、希望が、ぼくを侵した。

それはとても辛いことだった。

帰り道、キャンパスのはずれに、一本の桜があった。その花は幹を覆い隠すほどに咲き誇っていた。その美しさはとても残酷だった。それはとても辛いことだった。