東京ちんこdream 7 旅行、女の裸、女の弟
旅行に来ていた。
とりたてて目立つものもない土地で草の葉を踏んで歩いていった。川だか用水路だかを横切った。その周りだけが白い石に覆われていた。暑くも寒くもなかったが、快くもなかった。
Kという女の子とホテルに泊まった。石で建てられた陰鬱なホテルだった。部屋の中に西洋風の足つきのバスタブがあり、ぼくらはそこで風呂につかった。部屋はひとつきりだった。薄暗い中に緑や赤の灯りが点々と控えめにまたたいていた。ぼくが目を動かすとそれらの灯りはぼくの目になまめかしく揺れ動いて見えた。
Kの義理の弟も来ていた。ぼくもKもKの弟もみな服を脱いでソファにくつろいだり湯船につかったりした。Kの肉付きのよい体が目に入った。それにしてもなぜ弟も一緒なのだと思った。ぼくは嫉妬に近い感情に駆られていた。部屋にいる男が本当にKの義理の弟なのか確かめるすべはなかった。
熱病に浮かされて東京の街をさまようぼく
ぼくは、池袋北口の喫茶店で、周りを中国人に囲まれて、萩原朔太郎の詩を、読んでいた。
その他、本は、いろいろ買った。ニーチェと、三島と、ルバイヤートと。
朔太郎の詩を、読み続けることは、できなかった。中国人たちは、とても大きな声で、話していた。
ぼくは、秋葉原で買ってきた、延長コードのパッケージを開けて、空になった箱を、くしゃくしゃにして、灰皿につめた。
いつものように、ものを買い込んだが、それらを読んだり、使ったりする時間はあるのかどうか、分からなかった。
いつものように、街を転々と歩いてきたが、それで、なにかが満たされたわけでは、なかった。
ぼくは、なにかを求めていたが、それがなにかは、分からなかった。
街を歩けば、それがなんだか分かるような気がしていたが、それは間違いのような気がした。
朝から、部屋を出て、東京の街を、転々としていたが、まるで、熱病に浮かされていたようだった。
ぼくは中国人に囲まれて、虚空を見つめて、煙草を吸っていた。
東京ちんこdream 6 幻の遠足、ひきこもりの友人、強制された部活動
高校の同級生達たちと坂を歩いていた。そこは田舎で、建物らしきものといえばぽつぽつと木造の平屋が目に入るくらいで、5月の晴天の空と、はるか先までつづく坂道がどこまでも見渡せた。淡青色の空に白い大きなひとかたまりの雲が垂れ込めていた。
まるで遠足のようだった。坂道はゆるやかにうねりながらどこまでも空へ向かって伸びていた。
坂の途中にぼくの高校の体育館があってぼくらはそこを目指していた。体育館の入り口につくなり、ぼくは友人達と一緒に陸上部に入ることを命じられた。一緒に陸上部に入ることになった友人の中にはひょろ長くてバスケットが得意だったSもいた。でもSは今では連絡もとれず実家にひきこもっているという噂だった。
ぼくらは高校3年生だったので、部活は最後の大会が終わってもう引退した後だった。ぼくは部活の延々と続く練習をしなくてよいことになってほっとしたところだった。だから陸上なんか断りたかったが、言われるがままに体育館の中に入っていった。
東京ちんこdream 5
ぼくはどこの誰だか知らない男女数人と共同生活をしていた。部屋がいくつかあった。木造の古いアパートのようだった。広い居間があり、安っぽい箪笥があった。ぼくは居間の隣の2畳ほどの部屋でレム・コールハースの本を読んでいた。すぐそばに若い女がいて、彼女もなにか本を読んでいた。村上春樹の小説のようだった。
「猫がまたあそこに入ってる」と彼女が顔を上げて言った。ぼくは彼女の目線を追った。視線の先には食器棚のようなものがあった。ぼくは立ち上がってそれをのぞいた。近づいてみるとそれは食器棚とは少し違ったもののようだった。押入れのように上下が分かれていたが、奥行きはほとんどなく、うすいガラスの板が立てかけられていた。中にはがらくたのようなものがぽつぽつと置かれたままになっていた。この家に住んでいる人々は誰も、少なくともここ数ヶ月の間、この棚のようなものに手を触れてこなかったのに違いなかった。
猫はその上の段の隅に丸くなって寝ていた。茶白のまだ若い猫だった。ぼくは猫に触れてみた。頭を撫でると、後頭部の皮膚がずれて、中に、2つの目玉と、脳漿のようなものが見えた。目立は虚空をゆったりと眺めていた。
猫は静かな寝息を立てて寝ていた。ぼくはそばにいた女に猫を病院に連れていくと言ってその家を出た。寝ている猫を抱いて、ジャスコの一階の入り口の近くにある動物病院に連れていった。医者に猫を預けて待合室にいると、猫を心配してぼくの両親と弟がやってきた。ぼくは今まさに猫は医者に診てもらっていることを彼らに告げると、煙草が吸いたくなったので、病院の待合室を離れた。
お手洗いの近くにあるはずの喫煙所に行こうと歩き出すと、子供用の小さなゲーム機がいくつか並んでいた。その一つを覗いてみると、岡崎京子が80年代に出演した映像作品が100円で流れるようになっていた。どの映像を流れるのかは、ルーレットで決まるようだった。
東京ちんこdream 4
エスカレーターに乗っていると何気なくその黒さが目についた。
「エスカレーター・は・黒い・のだ」
それはぼくにとっては新しい真理だった。
エスカレーターは、黒く、その縁は、黄色いラインで、彩られていた。
でもぼくは、その、ぼくにとっての新しい真理を疑ってみた。
「なぜ・エスカレーター・は・黒い・のか」
それはぼくのBOSEのヘッドホンが銀色なのと同じ程度に必然的で意味のあることなのだろうか。
エスカレーターを上りきると駅のホームだった。
ぼくはそこで若いロックバンドの連中とすれ違った。
東京ちんこdream 3
ぼくが電車に乗っている時に雷が鳴った。とても大きな雷で電車の屋根に槍でも降り注いだようだった。ぼくはBOSEのヘッドホンでトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」を聞いていた。クリス・フランツの律儀なビートがディビット・バーンによる印象的なフランス語のサビまでぼくをせっせと運んできたところだった。
驚くほど白い肌の痩せた女がマスクをつけてぼくの真向かいに座っていたのを覚えている。気が付いた時にはその女どころか座席の乗客たちはみんな影も形もなくなっていた。それどころか自分が電車の中にいるのかどうか不確かだった。そこは暗闇だった。冷たい風が吹いていて、ぼくの感覚に訴えかけるものはそれだけだった。BOSEのヘッドホンは失われていた。カバンもなかった。服を着ているのかすらわからなかった。そして状況を確かめようにもぼくの体はぴくりとも動かなかった。
でもぼくは怖くはなかった。いったいいつからそうして暗闇に包まれているのもまったく気にならなかった。雷はついさっきぼくの電車を襲ったのかもしれなかったし、それはもう30年も前のことなのかもしれなかった。しかしそんなことはどうでもよかった。ぼくはただそこに立っていた。時折冷たい風がぼくの頰を撫ぜた。
東京ちんこdream 2
こんな夢を見た。
下北沢の駅の近くの坂道の途中でのど自慢のような大会が開催された。道の途中にベニヤ板とブルーシートを使って屋根と壁が設けられていてそこが会場だった。坂道に作られていたので客席はゆるやかな段々になっていて、舞台は下の方にあった。
会場の中にはおそらくは100人ほどの客がいた。僕が古くから知っている人たちが多かったようだった。そしてテレビの撮影も入っているようだった。
僕の叔父だか叔母だかも出演することになっていた。僕は彼らの出演の順番が回ってくるのを待っていた。でも何かの手違いがあったらしくなかなか順番は回ってこなかった。僕はちょうどそばにいた高校時代からの友人のKにそのことを苦笑しながら伝えた。するとどうやらKの知り合いも出演する予定だがなかなか出番が回って来ないのだと言った(ぼくはこのKとの会話をぼくの実家の2階の薄暗い部屋で窓の外の遠くに見える高層ビルを見ながら話したような気がした)。